「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか？　認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策 (今井 むつみ)


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これはこの本の要点です。


まず最初に, 認知科学から見たコミュニケーションの本質, 本書の核となるのは、認知科学の視点からコミュニケーションの仕組みを解明する試みです。人間は知識や経験、文化的背景が異なるため、同じ言葉を使っていてもその意味には微妙なズレが伴います。たとえば「犬」という単語一つとっても、思い浮かべる犬種や大きさ、感情的な意味合いが人それぞれ異なります。認知科学ではこの“意味の共有の難しさ”に注目し、ことばの理解が単純な情報の受け渡しではなく、脳内で文脈や過去の経験と結びつけて再構築される現象であることを明確にしています。本書では、脳の情報処理・カテゴリー化の仕組みや、いかにして私たちが世界を「名付け」て理解しているのかについて、最新の研究成果や実例を交えて詳説しています。これにより、コミュニケーションのギャップが構造的に避けがたいこと、そしてそのギャップへの気づきが重要であるという認識を読者にもたらします。


次に, なぜ「伝わらない」が起こるのか：背景知識と文脈の違い, 伝えたつもりが伝わらない根本原因に、背景知識や文脈の違いがあります。本書では、私たちが日々行うコミュニケーションが、いかにお互いの「暗黙の前提」に依存しているかを明らかにします。例えば、専門知識を持たない相手に専門用語を多用することで、理解のズレが生じやすくなります。また、育った環境や社会的経験が異なる場合、同じ言葉でも異なるイメージや重みを持つ場合があります。今井氏は、こうした背景知識のギャップによって生じる認知の誤差を、多様なケーススタディで説明。それぞれの前提や知識が照らし合わせられないまま会話が進行することで、言いたいことが誤って伝わったり、ばらばらの解釈が生まれてしまうことを論じています。」


さらに, 「説明力」と「理解力」を高める方法, 本書の実用的な部分の一つが、どうすれば説明力や理解力を高められるのか、という実践的アプローチです。ただ情報を伝えるだけではなく、相手の前提知識や関心に配慮した情報の提示方法、たとえば比喩や例え話、具体的な事例を活用する重要性が論じられています。また、理解力を高めるには自分の知識の限界や偏りに気づき、相手を尊重したコミュニケーションが不可欠であることも強調されています。今井氏は、相手の立場や知識レベルに応じて語り方を柔軟に変え、フィードバックを積極的に受ける姿勢が重要だと説きます。実際の会話例を通じて、抽象的な理論を誰でもすぐに実践できる形に落とし込んでいる点が、他のハウツー本と一線を画しています。


そして, 誤解の生まれ方とその修復手法, 私たちは誰しも、日常的に大きな誤解や小さなすれ違いを経験します。本書では、こうした誤解がどのように生起するのか、そしてどのように修復できるかを具体的に解説しています。認知科学の視点からは、誤解は「当たり前」として受け止め、その都度適切な手順を踏んで修復することが重要であると述べられています。たとえば、相手の理解を確認するために言い換えを求めたり、質問を投げかけてほんとうの意図を明らかにするなど、実際のコミュニケーションから学ぶべきポイントを多角的に提示しています。さらに、誤解の修復を通じてむしろ相互理解が深まり、コミュニケーション力が養われることも著者は強調します。これらの方法論は、職場や家庭、教育現場で直面する誤解・衝突を乗り越えるためのヒントが詰まっています。


最後に, 知識・経験の多様性を活かすコミュニケーション, 本書の終盤では、集団内での知識・経験の多様性に着目し、それをいかにコミュニケーションの質向上に活かすかという視点が語られます。同じ言語、同じ文化であっても、個々人が持つ知識や経験、価値観は千差万別です。今井氏は、異なるバックグラウンドを持つ相手と対話する場面ほど、コミュニケーションの工夫と柔軟性が求められると説きます。多様性を前提に違いを恐れず、共有できる部分を見極めながら対話を進めることが互いに新たな知識・視点を得る最大の機会であることを提示します。本書の知見は、多文化社会やグローバルなビジネスの現場、教育現場など、さまざまなシーンで広く応用が可能です。